ホリエモン



去る1月23日、ライブドアグループの堀江貴文社長(当時)が逮捕されました。罪状は「風説の流布」、「偽計取引」や「粉飾決算」等々。
これといった現業もないグループの株式時価総額が一兆円を超えていたというのは、何処かに嘘があったということなのでしょう。


一般に、良いファンタジーの条件は「巧い嘘を一つ、つく」ことだと言われています。「オタク風の男が成り上がって大金持ちになる」という物語も、大きな嘘によって彩られていたようです。残念ながら、嘘自体はお粗末なものだったようですが。
謎の露見したミステリーほど陳腐なものはありません。ライブドアという物語にはさっさと幕を引いてもらい、大根というよりもカボチャに似た役者には舞台を退場して頂きたいというのが私の感想です。


問題なのはライブドアという企業が何をしたかではなく、ホリエモンなる怪人物が、何ゆえ時代の寵児とまで持て囃されるようになったのか、ということでしょう。私はこちらの方に興味があります。


ホリエモンの「結局は世の中は、金だ」という言葉に、多くの人々が(疑念を覚えつつも)甘美な匂いを嗅ぎ取ったのは事実でしょう。特に、若い世代にとってはこれは実に魅惑的な言葉だったように思います。
バブル経済を経験し、大衆の大量消費時代を迎えた日本では、精神的な幸せよりも物質的な幸せの方がより簡単に手に入る状況になっています。年収一〇〇〇万円を境に勝ち組負け組などと分割する社会で、ホリエモンの言葉はある種の真実味を帯びたものとして若者には受け容れられたはずです。


私はこのことの善悪を云々しようという気はありません。個人的には気に食わない思想ですが、時流を考えればこのような考え方を現われるのも無理はないでしょう。むしろ、一般大衆に上を見るだけの余裕が出来たのだと喜ぶべきかもしれません。


しかし、上を見ることを覚えた大衆がチョコレート工場へのチケットを求める少年少女のように、株券を買い漁ることには感心しません。今回のライブドア騒動でも多くの人が虎の子を失ったことと思いますが、株で儲けるのは容易なことではないからです。


20世紀の大経済学者ジョン=メイナード=ケインズは自分の母へ宛てた手紙の中で、「僕は株の真理を見つけた」と述懐した直後に株で財産の多くを失っています。「株は生き物である」という言葉もあるように、株式相場は御しがたく、利益だけをもたらすものではないのです。


しかし、政府与党は個人が自己資金を投資に回していることを歓迎しているように見えます。個人投資家の資金が流入することで確かに株価は上昇し、日本の経済が回復軌道にあるように見えます。
けれども、投資に最低限必要な知識も持っていない個人投資家による投機じみた株の売買は株式市場全体の混乱を招き、企業の実態とかけ離れた水準での株価の乱高下を招いています。こうした動きは歓迎されるべきではありません。
そしてその一方で、政府与党は国民の預貯金が減ったことに不快感を漏らしています。一体、個人投資家の資金がどこから来たと思っているのでしょうか。


国民は、閉塞感を覚えているのでしょう。だからこそ、ホリエモンを祀り、株に興じるのです。偉大なる総中流の時代は終わりを告げ、資本主義の時代がやってくるのです。
これが、歓迎されるべきことなのかどうかは私にはわかりません。国会でホリエモンを応援した、していないで揉めている偉い先生方には是非、こういった問題についても考えて頂きたいなぁ、と思ったり思わなかったり。