続・魔法について



 その年も魔法使いたちは雪のちらつく季節に馬車でやってきた。
 村の子どもを驚かせたのは、魔法使いの中に少女が紛れていたということだった。
これは大事件と云ってよかった。村に余所の子どもがやってくるというのは絶えて
ない椿事であった。


 家々の庭先や村の辻で魔術が披露され、次の場所へと移る度に子どもたちは
どこか落ち着かない面持ちで隊伍を為して一団について行った。
 少女は色が白かった。村の子どもは一人の例外もなく汚く真っ黒に焼けていたので
肌の色が白い子どもというのはそれだけで不思議な感じがした。


 少女も矢張り魔法使いである以上、魔術をやった。
 目尻と口元に紅を薄く引き、袴と羽織で着飾って現れた少女は、村で一番高いと
される仁兵衛爺さんの家の柿の木の上まで浮かび上がると、そこでトンボを切った。
 お濁りを呑んだ大人たちは
「今、あまっ子の白い脛が見えたぞな」とか「うんにゃ、見えんぞな」とか云って
騒いでいたが、子どもたちはただ驚いて目を見張るばかりであった。




 専念寺という村に一つきりの寺で魔法使いたちが休みを取っている間も、子どもは
大忙しだった。順繰りに斥候の役目を仰せつかり、少女の様子を見張らねばならない。


 当番が回って来た時、私は一計を案じた。
 家人から弁当の代わりに渡されていた、きび餅を少女に呉れてやろうと考えたのだ。


 寺の壁の破れているところから敷地に入ると、私は他の子どもの報告から見当を
付けていた辺りに目を遣った。
 少女は一人で所在無げに伊奈の空から振る粉雪を見ていた。
 私は少女に近づいた。
 少女は、村の女子にはないいい匂いがした。
 何か声を掛けようと思ったが、こちらに気付いた少女と目が合ってしまい、何を
言おうとしていたか分からなくなってしまった。
 私は少女の手に無理やりきび餅を押し付けると、そのまま背を向けて走った。
 後ろで少女が何か言ったようだったが、振り返らなかった。
 火照った頬に、雪が心地よかった。




 寺で一服した後、魔法使いは次の村へと移動を始めた。
 私の親が呼ばれ、何かを手渡された。
 それは小さな細工の入った独楽だった。
 どういう経緯か少女はきび餅を渡したのが私だと知り、お礼に呉れたと云うこと
であった。
 魔法使いを乗せた馬車は来た時と同じように静かに去って行った。
 私は独楽を握って馬車の往った道をずっと見つめていた。


 こうした少しの楽しいことが終わると、伊奈の谷は今度こそ冬に閉ざされるのであった。